へ行って、グレインを借りて持って来い』などいわれて、どのくらいそのために恥をかいたり、方々駆けずり回ったりしたかしれなかった。僕は、ここにも生活はない、と思い初めていた。けれどもそこは、学生とちがったところがあった。真剣だった。そして、だれもが、心の底になにか雪雲のように陰欝《いんうつ》なものをたくわえていた。どんな若い労働者でも、不平をいっていた。そして、彼らは、その生活が悪いと考えていた。僕もはなはだ悪いと思っていた。そこで、僕らは、いい生活を考えるのだった。こんな生活はいけない。
 こんな生活は、あそこがこういけない、ここがあアいけないとすっかりわかってるんだ。そこで、いい生活はここをああ、あそこをこうと、旋盤をにらみながら一日に十四時間も十六時間も考えるんだ。それを、やっぱり仲間たちも、多いか少ないかだけで、考えるには考えているんだ。
 『いい生活を人類のために求める。そこにおれの生活があるんだ』と、こう僕は、フト旋盤に送りをかけて、腰をおろす途端に考えたんだ。それから僕は、本を読む代わりに、自分たちの生活を見つめるようになった。僕はまるで僕自身を仇敵《きゅうてき》のように白い
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