いた。すると、
『人間はなぜ働かねえやつがぜいたくだか知ってるか、え』とそいつがまたいうんだ。
『人間は苦しんでるんだ』と僕がいったんだ。
『そうだ。一人のために千人が、十人のために一万人が』とそいつがいったんだ。僕はわかった。その労働者は、白水《はくすい》という名前だった。
それから僕はその男とつき合うようになったんだが、その白水という男は全く珍しく意志の強固な、感情を理知でたたき上げて、火のような革命的な思想を持ち、それを僕らが飯でも食うように、平気で、はた目からは習慣的に見えるほど、冷静に実行する男だった。A工場では、だれもその男を尊敬していた。会社では、その男を馘首《かくしゅ》しようとして、あらゆる手段をめぐらした。そして、それは白水も十分に感づいていたようだった。彼は、目だけを光らして、ほとんど上役と口をきくようなことがなかった。上役も彼を見ると、なるべく避けて歩いてるように見えた。彼は、朝から終業まで、熱心に旋盤にかじりついて、仕事をした。そして、不思議なことは、彼は、特に能率を上げたこともなく、下げたこともなかった。いつも一生懸命でやっていて、そして彼の能率は中ち
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