、ストキの観察及び批評は当たっていると、思わずにはいられないのである。
 食事は、藤原の皮肉なる観察のごとくにして終わった。終わるやいなやまた元のごとく寝床へ犬のようにもぐり込んだのが、三上であった。西沢は煙草《たばこ》に火をつけて、彼が最も得意とする、信州|岡谷《おかや》付近の紡績工場へ勤めていたころのローマンスの一くさりを語り始めた。彼の話は実にうまかった。講談師でもあれほどには話さないであろうと思われるほど、一切を創作的に述べるのであった。そして、その話がうまければうまいほど、初めの人は感心し、古顔は、にげ出してしまうのであった。
 今は、藤原も、波田も、にげ出すわけに行かなかった。ほかにだれも西沢のローマンスを引き受けてくれるものがないからであった。藤原は辛抱する気でこれもむやみに、煙草をふかした。
 西沢の話が、その巧妙なる山にはいって、今まさに落ちようとする時、藤原がいった。
 「君の話は大変うまい。そして大層おもしろい。ただ、一度だけ純粋なほんとの話をして聞かしてもらったら、なおおもしろいだろうと思うよ」
 「アハハハハ、君の皮肉の方が上手《じょうず》だよ。僕も一度ほんと
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