みがき楊子《ようじ》をくわえながら相談した。
「それは願うまでもなく至当の事じゃないか。黙って休みゃいいさ」と藤原は闘争的に主張した。
「これは、一々その都度都度、頼んだり願ったりしちゃ、面倒だし、そのたびにかけ合いに行く者が悪者になるようだから、一つ永久的の取りきめにしたら、『日曜日、出帆入港にて休日フイとなりたる節は、翌日を公休日となすこと』とか何とか、四角ばって、約束しといたら、そんなに、毎々まごつかないでも済むだろうじゃないか」波田は提案した。
「そんなにしなくたって、そういつもあることじゃないんだから、今日だけ願っといたらいいじゃないか」とボースンはなだめた。
哀れなボースンよ! 年は寄ってるし、子供は多いし、暮らしは苦しいし、かかあは病気だし、この憶病な禿《は》げのお爺《じ》さんに従うことに皆決めた。
ボースンは、顔をあわてて洗うとそのまま、チーフメーツのところへ頼みに行った。
船は大うねりに乗って、心持ちよく泳いで行く。右手にははるかに本州北部の山々が、その海岸まで突出して、豪壮なる姿をまっ白く見せた。寂しい山河《さんが》である。そこにはわれらの寄るべき港とて
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