れは、水夫室なる罐詰の、扉《とびら》なる蓋《ふた》をあけて、初めて、人心地《ひとごこち》がつくのであった。――これは、本文と関係のないことであるが、この時乗り組んでいた人間のうち、藤原、波田、小倉、西沢、大工《だいく》、安井は皆肺結核患者であった――そして、この空気混濁は、そのことに起因して、肺疾患者を海上において生産する矛盾をあえてした。
 罐詰の内部に、生きたものがいるという結果は、どんなものであるかは、明らかにだれにでも想像のつくことであった。ただそれは、その蓋《ふた》をあけた時に、蓋の外の清浄さによって、非常に救われた。
 彼らが五時間眠っている間に、海は凪《な》いだ。アルプスのように骨ばっていた海面は、山梨《やまなし》高原のようにうねっていた。マストに、引っかかり打《ぶ》っつかった雲は、今は高く上の方へのぼって行った。
 発作の静まったあとのように、彼女はおとなしく、静かに進んだ。
 室蘭出帆の日は日曜であって、作業、それも並み並みならぬ難作業だったので、今日《きょう》の月曜は日曜繰り延べで休みにするように、「とも」へ頼みに行くことにしようではないかと「ならずもの」どもは、歯
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