にして」いるのであった。水夫らは、セキメーツの怒鳴るのと、波浪のほえるのと、スクルーの轟音《ごうおん》と、リギンの裂くような音とをゴッチャゴッチャに聞いてしまった。そして、依然として、彼らは、彼らの必然に従って、二つの反射運動を繰り返した。
セキメーツは自分の怒鳴るごとに、わざと、一度ずつ余分に入れるようにしてやろうと計画した。「こいつらをあくる朝まで巻かせてやるぞ!」と彼は決めたほど怒《おこ》ってしまった。
沈錘は長い間反抗して、とうとう上がって来た。錘の中からガラス管を取り出して、それに代わりを入れて、入り口を、グリスでしっかり塗るのである。そのガラス管が錘の内へ収まるやいなや、セキメーツは「レッコ」と怒鳴る。ボースンはバネをとる。沈錘と、ワイヤとは投げられた石のように飛んで行く。
この作業を水夫らは繰り返さねばならなかった。それは我慢のならぬことであった。けれども我慢せねば、またならないことであった。
水夫らは、八度、それを繰り返した。それは、八日、航海するよりも、八日拘留されるよりも長かった。その間に四時間半を費やした。彼らはぬれた麩《ふ》のように疲れ衰えてしまった。
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