、仕事着をとりに行かねばならなかった。けれども裸で、その寒さに道中はならなかった。
波田は、自分の仕事着がまだ、今かわかされたばかりであるので、いくら汽罐場の上でもまだ生がわきであることを知っていた。従って彼は、猿股一つの上に合羽《かっぱ》を着て作業しようと[#「しようと」は筑摩版では「しよう」]決心でいた。ところが仕事着は小倉が彼に一つくれることにしようと申し込んだ。それで、彼は、油絵のカンバスのような、オーバーオールを一つ手に入れることができた。それにはペンキで未来派の絵のような模様が、ベタ一面にいろどられて、ゴワゴワしていた。
「それでも、ロンドンで買ったんだぜ」小倉はいった。
「舶来の乞食《こじき》が着てたんだろう。こいつあ具合がいいや」と彼はいった。
水夫たちは皆|各《おのおの》スタンバイした。そして、ともへと出かけた。
暗黒は海を横にも縦にも包んでいた。闇《やみ》は、その見えない力であらゆる物を縛り、締めつけ、引きずり、ころばしているように思えた。それはすべての物をまとめて引っくるみ、その中の部分をも締めつけた。風が波に打《ぶ》っつかり、マストに突き当たり、リギン
前へ
次へ
全346ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング