」と藤原はいった。
 この時、ブリッジからコーターマスターが降りて来た。そしてボースンの室の入り口から怒鳴った。
 「今から、ディープシーレット(深海測定器)を入れろッ」と、それから水夫室へ来てそのまん中で大声に「スタンバイ」と怒鳴った。

     八

 皆は、今日《きょう》昼中の労働がはげしかったので、夜は休みになるものだと考えていた。暴化《しけ》はややその勢いを静めはしたが、しかも、船首甲板などは一|浪《なみ》ごとに怒濤《どとう》が打ち上げて来た。そして、水火夫室の出入り口は、波の打ち上げるごとに、すばらしく水量の多い滝になって、上のデッキから落ちて来るので、一々その重い鉄の扉《とびら》を閉ざさねばならぬほどであった。それに、けさからのワシデッキとハッチの密閉とで水夫たちは、その着物の大部分をぬらしてしまった。(波田、三上のごときは、その全部を二重にぬらした、つまり一そろいの服を二度ぬらした。)それで、今、だれの仕事着も洗いすすがれて、汽罐場《きかんば》の手すりに、かわかされてあった。
 水夫たちは起きるとすぐ、猿股《さるまた》一つでか、あるいは素裸でか、寝間着かで、汽罐場まで
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