の考えに適応しなければならないのかい」藤原は、小倉にきいた。
 「適応する必要はもちろんないさ。しかしただ適応する者のあることだけは事実なんだ。僕は資本家が自分自身の肉体の構成と、労働者の肉体構成とが、全然、異なるものであると考えているだろうと思う」
 「それで、そうなら僕らはどうだってんだね」と藤原はきいた。
 「それで、僕らは、僕らとしての『意識』を持つ必要が生じて来るんだ。資本家や、資本家の傀儡《かいらい》どもが、商品を濫造《らんぞう》するように、濫造した、出来合いの御用思想だけが、思想だと思うことをやめて、僕らにゃ僕らの考え方、行ない方があることをハッキリ知らなきゃならないんだ」小倉は頭の中で、辞書のページでも繰ってるようにしていった。
 「どうして、それを考え、どうしてそれを知ればいいんだ」藤原は問いをやめなかった。
 「それは、あまり困難な問題だ。僕はそれで悩んでるんだ」と小倉は答えた。
 「小倉君『人間は万物の霊長なり』という人間の造った言葉があるだろう。そこでね。僕は、昔から、一番苦しい、貧しい、不幸な階級の中で、またことに貧しい不幸なのろわれた人々でも、万物の霊長だっ
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