棒猫であったにしても、それは僕らの知ったことじゃないことになるわけだ」
「というと」と藤原は小倉にききかえした。
「つまりさ。僕らは、その飼い主から見れば役に立たない泥棒猫なんだ。ね、いつ主人のもの[#「もの」に白丸傍点]をかっぱらうか油断もすきもありゃしない、とこう、見られているんだ。だから、主人の方じゃ僕らを泥棒猫扱いするんだ。扱いだけじゃないんだ、僕らを真物《ほんもの》の泥棒猫か、もっと適切にいえば、去勢した馬車馬と考えてるんだ。だから、主人、つまり、資本家からいえばさね、僕らは、彼らが僕らをしようと思うままにされていることが、唯一の方法なんだ。だから、船主が『水夫らは昼飯を食わない方が労働能率を上げるだろう』と思えば、僕らから昼飯をとり上げてしまうし、室蘭、横浜間は三日で航海すべきだから、糧食はカッキリ三日分でよろしい。難破したり、遅航したりすれば、それはやつらの例の怠惰から来たもので、おれの方の損害の方が大きいから、それ以上の積み込みは相ならぬ、ということになれば、それも正しいのだ」小倉はきわめてまじめに、説法でもするように静かにいった。
「フーン、して見ると、僕らもそ
前へ
次へ
全346ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング