でもなかった。彼は今は暴力的であり得た。最も露骨なタイラントだった。
 船長の命を受けたとものボーイは、おもてへ来た。そして、ボースンに言った。
 「ボースン、荷物を片づけて、下船の用意をして、ボースンと、藤原と、波田と、西沢と、小倉と、宇野と、サロンまで来いと、船長がいったよ。それからね、オイ」彼は今度は彼自身の部分の話に移った。「水上署の巡査が十五、六人サロンへ来て待ってるぜ、きっと波田があばれると思って連れて来たんだぜ。すこしあばれた方がいいんだ全く。皆にそういってくれよ、いいかい」彼は、ともへと帰って行った。
 そのことは、もう皆に特に通知するまでもなかった。とものボーイが来れば、何かの命令だということはわかるので、水夫たちはボースンの室の前で立って聞いていた。
 「まずかった!」藤原は感じた。「しかし、これほど徹底的だとは思わなかった。これじゃまるで船はカラッポだ! だが!」彼はじっと我慢した。彼にはもう彼が歩いて行く道筋がハッキリわかっていた。それは白くかわいた埃《ほこり》っぽい道である。沙漠《さばく》のように、人類を飢餓と渇とに追いやるところの道であった。
 波田もさとっ
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