た。おれたちは「それでは行くんだな」と思った。「おれたちの行く道は、右は餓死だ、左は牢獄《ろうごく》だ」彼は吐き出すようにいった。

     四七

 彼らは各《おのおの》自分の運命を知った。そしてその行李《こうり》へありったけの彼らの持ち物を詰めた。彼らは、その持っている者は、布団《ふとん》までも行李に詰めた。彼らの行李はなお余裕を持っていた。彼らは、全く簡単に、その世界一周旅行にでも上りうるのであった。船乗りの生活は乗客として見た場合には、全く異なった観を呈する。それは、水火夫に至っては、乗客から見たのではまるでわからないのだ。ことに貨物船においては、乗客がないのだ。乗客がないということは世間|態《てい》がないということになるのだ。風呂《ふろ》さえないのだ。搾《しぼ》りたいだけ搾るのだ。
 彼らは、食って着るだけでなお不足であったので、従って、その最初船に乗る時に買った行李、その中へ詰まっていた種々の物が、だんだん減っては行ってもふえて行くなどと言うことはほとんどなかった。
 その空隙《すきま》の多い、中実の少ない行李を引っかついだ彼らは、あたかも移住民の一列のように続いて彼らの
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