火にあこがれてしまうのであった。そのくせ彼らは、どの上陸の際でも陸上の生活が、彼らと非常に縁遠いものだということを感じさされた。それはちょうど、陸上のすべての事物や人が、彼を突っ放すのだと感ぜずにはいられないのだった。
 それは左ねじの電球が、右ねじのソケットにはまらないのと同じく、彼らを専門的にし、不具的にしたのだ。
 万寿丸は一晩港外に仮泊しないでも済むように順序よく、進んだ。尻屋《しりや》の燈台、金華山《きんかざん》の燈台、釜石《かまいし》沖、犬吠《いぬぼう》沖、勝浦《かつうら》沖、観音崎《かんのんざき》、浦賀《うらが》、と通って来た。そして今|本牧《ほんもく》沖を静かに左舷《さげん》にながめて進んだ。
 水夫たちはフォックスルにスタンバイしていた。雪もよいの風は鋭く頬《ほほ》を削った。その針はどんな防寒具でも通すのだから、水夫らの仕事着などは、蚊帳《かや》のようであった。彼らは、雨も雪も降らないのに、合羽《かっぱ》を着ていた、それは寒さをも防ぐし、軽くもあるのだ。そして飛沫《ひまつ》をも除《よ》けることができるのだ。
 十二月三十一日、午前九時――全く、うまく行ったものだ――万
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