が一様に水を欲しているように、――陸上における、陸上であれば木賃宿でもいい、生活に飢えていたのだった。それに、そこは正月ではないか。そのために彼らの足は地についていなかった!
 本船は、立派に化粧して入港するのだ! 船は二、三日|碇泊《ていはく》するんだ。いくらかの月給のほかに、手当があるはずだ! あそこに行こう、ここに行こう、おれは東京まで行って来よう! 種々《いろいろ》に彼らは考えていた。
 高い鉄の窓、あるいは高い赤い煉瓦《れんが》の塀《へい》を越えて、囚人が社会の空を望む時に、彼らはそこに実際以上の自由があり幸福があるように考えると、ドストエーフスキーは言ったが、それは全くうまいことをいったものだ、それと同じく船のりたちも、陸には実際以上の憧憬《どうけい》を持った。彼らは、それが陸上でさえあればどんな幸福でもありうると、彼らが陸にいて苦しさのあまりかつては、海へ逃げ出したことさえも忘れて思うのであった。あの時分と今とは変わってるだろうと、またあの時分はおれがまずかったんだと。彼らは、夜の入港のように、陸の醜悪な事実を一切|闇《やみ》のおおうにまかせて、その明るい、港の魅惑的な燈
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