うも知らなんだ」そのはずであった。
 波田は、酒も飲まず、女郎買いもせず、おとなしくして、よく仕事をする評判な青年だったのだ。「全く、人は見かけによらないものだ!」
 「え、どうだいボースン?」今度は藤原がぼんやりしてるボースンにきいた。
 「え、ああ、おれあぼんやりしてたよ」彼はほんとにぼんやりしていた。
 「冗談じゃないぜ、しっかりしてくれよ。皆大汗で働いてるんじゃないか」
 西沢と小倉と宇野と波田と、この四人は交渉条件のことについて、何かしきりに話し合っていた。
 そこへテーブルの上へ、機関部のボーイ長が、紙っきれを持って来て載せた。そして「これを機関部から」といってそのまま、逃げるようにして飛んで行った。
 西沢は、その紙っきれを開いて見た。
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フントウ ヲ シャス、セイコー ヲ イノル、キカンブカフ 一ドー セーラー ショクン
[#ここで字下げ終わり]
と電報文みたいに片仮名で書いてあった。
 彼らはそれを見て、戸口の方を向いて、手をあげて合図をした。
 「徹底的にやれ、罷業《ひぎょう》になれば、火は焚《た》かんから」戸口の外からだれかが怒鳴った。
 四
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