かった。それは、彼らを、この世の中で一番詰まらない役割に引っぱり込んでしまうからであった。というのは、いつでも彼らは最も詰まらない役割であるのだが、それをほんとうに彼らに手きびしくさとらせるからである。だれでも、自分が踏みつけられ、ばかにされることを喜ぶものはない。わがセーラーたちも、しんみりする時必ず、そうであることがわかるようにひとりでに考えるのであった。そして、船乗りの気質として、そんなに自分たちを「コミヤル」(余剰労働を搾取するという意が含まれている船乗り言葉)やつは容赦しないはずであるのだが、それができ得ないところに、彼らが、しんみりしたたびにしょげ込み、次いで自暴自棄になるという結果が生まれるのであった。
彼らは、自分たちが人間であることを知っていた。そして、人間らしからぬ生活に追いまくられていることを知っていた。そして、彼らはどうすれば、これらの不都合な生活から人間らしい生活へはいれるかを、絶えず考え、その機会をうかがっていた。そして彼らはその考えをまとめることも、機会を捕えることもできないで「小資本を貯《た》めるための、きわめて短い時間だけ、この危険な仕事によって金も
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