いて、その中央に、テーブルと、ベンチとが作りつけてあった。で、おもてでは、一切|合切《がっさい》がギリギリ一杯であった。食卓は、用事が済むと、室のまん中に立っている柱に添うて上につり上げられるにしても、やはり一杯一杯であった。そして道具置き場は、その食卓の下をくぐって、船首のとがったところが、そうであった。
わが万寿丸ははなはだしく団扇《うちわ》に似てるという定評があってさえ、やはり船の船首の部分は、いくらかとがっていることが、これで見てもわかるのであった。
そして、窓はすべて、二重に厳密に閉ざされ、デッキへの鉄の扉《とびら》までが厳重に閉ざされたから、空気は全く動かなく通わなくなってしまった。そして、この、太鼓の内部のような船室は、皮であるべきサイドの鉄板が、波濤《はとう》にたたかれてたまらなくとどろくのであった。
その間にボーイ長は、その負傷の疼痛《とうつう》を、陸上の父と母とに訴えた。摺子木《すりこぎ》のように円《まる》い神経の持ち主であるセーラーたちも、環境がかくのごとくであるために、ひとりでにしんみりしてしまうのであった。そして、彼らは、いつでも、しんみりするのを好まな
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