大工はフォックスル(おもての甲板)へ上がって揚錨機《キャプスタン》をゴットンゴットンと調節したり、油を差したりしていた。
ボースンはチーフメーツの室で、おそろしくきまりの悪い思いをしながらまだ、そこに突っ立っていた。
「どうしたんだい。ボースン、お前はこれを知らなかったのかい」チーフメーツはその机の上の要求書を指さしてきいた。
「早いことをやるものです。私はまるで存じませんでした」ボースンはよみがえったように答えた。彼はもう先刻から、何でもいいから一言口がききたくてたまらなかったのだ。
「すこしも知らないじゃ困るじゃないか、お前に責任があるんだぜ。一体どうするつもりなんだ。それに今日《きょう》出帆が遅れでもすると正月には横浜へ帰れやしないぜ。そんなことにでもなって見ろ、船長は、一人《ひとり》残らず下船を命じかねないから、お前はどうするつもりかい」チーフメーツはボースンから切りくずして行こうととっさに考えついた。
「私は……、困りましたなあ、ボイラーを揚げる時もようやくなだめて仕事をさせたのですけれどもなあ、とにかく全く私もぬかっていたのですから、おもてへ行ってできるだけ仕事
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