つぶさないとか言うのは、おかしいと思います。そんなことはどうだっていいようなものだけれど、誤解があるといけないからいっときますが、この要求書は最初あなたに出したんですよ。そうするとあなたはおれでは決められんから船長へといわれるのでしょう。で船長へ渡すことを頼めば『おれの顔をつぶす』といわれるのですね」
「そうではないか、おれの言うことを聞かんじゃないか」チーフメーツは一つグッと押した。
「それではあなたは、私たちの要求書の決定権を持たないというときながら、握りつぶす権利を持ってることになりはしませんか、握りつぶすことは否定することじゃありませんか、否定する権利だけ持っていて肯定する権利を持たないと言うことは、このごろの流行にしても、理屈には合わないじゃありませんか。だから、あなたに対して、今ではわれわれは何らの要求もしません。ただ取り次いでいただけばいいのです」ストキはやっぱりまじめに、急がず、何か相談でもしてるような調子で話した。
それは全くチーフメーツの顔をつぶしてしまった。彼はうんともすんともいわなかった。
「船長が帰ったら渡すよ」
「どうぞ願います」ストキはいった。
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