えた。
「そいじゃ今持って来るから待ってくれよ」
波田は、コックに、卵をくれるように頼んだ。
「卵なんぞぜいたくなものが、おもてに使えるかい、ぼけなすめ!」波田は一撃の下《もと》に、卵なんぞ「おもて」の者の口に入《はい》りかねることを教えられた。しかし、もし、卵がなければ、流動物を与えるのに困るのであった。
「どうだろう、ボーイ長が固い物は食べられないだろうと思うんだが、何か寝てて食べるようなものはないだろうか、とも(高級海員の事)のコーヒーへ入れるミルクを一|罐《かん》だけ分けてもらえないだろうかなあ」波田は食餌《しょくじ》のことは、チーフメートが医者ついでにやるべきものだと考えた。けれどもまた「やるべきこと」はおれたちだけにあるんだ。と思いかえした。
「それじゃシチャード(司厨司《ステューワアード》)へ話して見ろよ! 一両ぐらい出しゃ分けられねえこともねえかな、ぐれえなとこだろうぜ」このコックはおもての食費をごまかすために、とものコックから、給料を下げてまでも、おもてへ一つ船で鞍《くら》がえした、途轍《とてつ》もない「悪《わる》」であった。
「この野郎、鼻持ちのならねえ
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