に乗ってるとこういうものは、とても食べられないね」などといって、彼は「鹿《か》の子《こ》」の小豆《あずき》を歯でかみとったりしていた。
「全く、この家の菓子はうまいよ。横浜にだって、たんとありゃしないよ」波田は通がった。
「菓子の鑑別にかけちゃ、波田君は、ブルジョア的の嗜好《しこう》を持ってるからなあ」藤原は笑った。
三人は、胸の焼けるほど菓子を食った。その間に、疲労も回復された。そして、しばらくは、船のことや、一切のいやなことを、忘れてることもあった。が、藤原の心は、ストライクが、いつ起こさるべきであるかが、ほとんど、忘れられなかった。
彼は、菓子を食いながら――「万人が、パンを獲るまでは、だれもが、菓子を持ってはならぬ」というモットーを思っていた。この言葉、このモットーは、どのくらい、藤原を教育したことであろう。この簡単でわかりのいいモットーは、全世界の、労働者たちの間に、どんなに、親しい響きをもって、口から口へ、村から街《まち》へと、またたく間に、広がって行くことだろう。そして、この言葉は「アーメン」を口にする人の数を、今でははるかに、抜いているのだ。そこには、新しい感激
前へ
次へ
全346ページ中271ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング