は、驚くべき「理由」がなかった。だが、この診断書は、幾分なりとも、何らかの衝動を与えまいものでもない、と三人は空頼みにした。
 小学校の子供たちが、本と弁当とを載せた小さい橇《そり》を引っぱって、笑ったり、わめいたりしながら、その高みにある学校から、ゾロゾロと帰って行った。道が、急な坂をなしているところになると、子供たちは、子供たちにとっても小さすぎる、その橇の上へ、両足をそろえて、まっしぐらに、下の街《まち》へすべり落ちて行って、曲がりそこねて、雑貨屋の店先に飛び込んだり、その破目板に打《ぶ》っつかったりした。中にはうまく曲がったは曲がったが、雪の掃きだめの山へ衝突して、煙のような粉雪をまき散らしたりする子もあった。
 これは、ボーイ長にとって、たまらぬほど、愉快なことであった。いい気散じであった。
 三、四年前までの彼の姿が、無数に雪の上をすべったり、ころんだりするのである。彼は、足のことを忘れてしまって、自分の負《おぶ》さっていることまで忘れていた。
 彼を負んぶした波田は、汗をたらしていた。
 「波田さん、菓子屋まで、まだ大分寄り道になるの」ボーイ長はフト菓子が食べたくなった。
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