いずれ帰船して、相談いたしましてから」
三人は、礼を言って、ボーイ長は、波田に負われそこを出た。
診断書が、百通あってもだめだろうとは思ったが、とにかく、それは、一つの有力な味方であった。
今では、実際の負傷や疾病よりも、診断書の方が、重大な意義を持っているのだ。ことに、それは、労働階級の負傷疾病の場合、そうであるのだ。工場医は、資本家の診断によって診断書を書く、という役目だけを勤める場合が多かった。
資本家は、機械に截断《せつだん》された労働者、ベルトに巻き込まれて、砕けてしまった労働者、乾燥炉の中へおちて、焼き鳥のようになった労働者には驚かない。それの診断書だけに驚くのであった。
炭坑主は、自分の炭坑が、ガス爆発をした時に、五百人の男女工が、坑内で蒸し焼きにされていることには、決して驚かないのだ。彼は、その坑口の密閉が三年後にか、五年後にか開かれた時、まだ掘る部分が焼けずに残されているか、どうかに心配しているのだ!
汽船においても同じことだ。一緒に沈んだ人間は何でもない――しかし、船体は資本家にとって大きな永久の嘆きなのである。
船長も、ボーイ長の負傷そのものに対して
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