は、検温器がないんですから」藤原が答えた。
 「夕方になると、気分が悪くなったり、寒けがしたりしやしないかい」医者はきいた。
 「ええ、しょっちゅう傷は痛いんですが、気分がぼんやりして来るのは、夕方です。何だか、妙な夢なんぞ見て、うなされたりします。それに、寒けも夕方になると、きっと来ます」安井は答えた。
 医者は、背中から呼吸器を聴診しながら首を傾けていた。
 「入院ができるかい。入院をした方がいいんだがなあ」医者は、藤原の方に問いかけた。
 「何でございましょう病気は。入院も、できなかないと思いますが、船の方から経費が出ないと、私たちでは、入院費がとても支払えないと存じますので」藤原は、正直なところを打ち明けた。
 「病気ってのは、打撲から来たものだ、やっぱりね。足のように、中から骨と肉とででき上がったところはいいが、こういうところは、内部に複雑な、機関があるからね」といって、七面倒なむずかしい病名をいった。
 「で、病気の原因が、負傷から来たものだということがわかれば、船から出るのかね? 診断書を書いて上げようかね」といって、医者は、診断書を書いて渡した。
 「どうもありがとう、
前へ 次へ
全346ページ中265ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング