ては、気の毒そうな顔をした。波田は、ボースンを、月二割も利子をとるので、船長の模型ぐらいに評価していたのであったが、彼が「馘首《かくしゅ》」されたことを聞いて、急に同情者になってしまった。
 彼は、梅雨時《つゆどき》の夕方みたいな気持ちでいる、ボースンの室へはいった。そして、何かと手伝ったのであった。――彼が、今時々足にはめるゴム長靴の「ゲートル」はこの時に、もらった記念品であった――。
 ともからは、ボースンはまだ上がらないかと、しきりに急《せ》き立てて来た。
 「人間ほどわからんものはない。ああ人間ほどわからんものはない」と、ボースンはため息と共に言った。
 ボースンは、三上に送られて、自分も一本の櫓《ろ》を押して、今帰ったばかりの直江津の街《まち》へ向かって漕《こ》ぎ去った。
 ブリッジからは、船長とチーフメーツが望遠鏡でこれを見送った。伝馬はだんだん小さく、波山と波谷との上にのりつつ見えつ、沈みつして行った。
 ちょうど、その日も荷役がなかった。また別に仕事もなかったので、水夫らは、船首甲板にウォーニンを張って、その下で寝ころびながら、ボースンの伝馬を見送っていた。
 伝馬はど
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