難にもしないと考えた。そして、彼がどんなに、この「虫けら」のようなボーイ長に対してさえ、人道的であるかを見せてやることはいい。と彼は考えた。
「おもては全く、寒いね、そしてまるでまっ暗じゃないか」と黒川は口を切った。彼はボーイ長の胸部にイヒチオールを塗布しながらいった。
「満船の時はどうも仕方がありません」と、ボースンは鞠躬如《きっきゅうじょ》として答えた。まるで、まるで、寒くて、暗くて、きたなくて、狭いのは、ボースン自身の罪ででもあるように。
「これじゃいくらお前らでもたまらないなあ」
「なあに、メートさん、新造船だから、いい方ですよ」とボースンは答えた。
「暗くて寒いことあ今始まったこっちゃないや、おまけに風呂《ふろ》だってありゃしない、これでもおれらは、人間並みは、人間並みなのかい」と藤原が後ろから、燃えるような毒舌を打《ぶ》っつけた。
チーフメートは早速《さっそく》方向転換の必要を痛感した。
「ボーイ長の傷は存外軽くてすんだね。おれはもうとてもだめだと思っていたんだよ、命拾いしたわけだね」
「そうさ、すぐくたばりゃもっと傷が軽いわけさ、手がかからねえからな」また
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