は、そこらの物を片づけ始めた。帆布で作った袋の中へ、一切合財押し込み始めた。そして、その間に、アーッとため息をもらした。曇った夕暮れのように、どんよりと考え、どんよりと感じた。彼は寝床の下から、長いこと、そこにつっこんであった、破れたゴムの長靴《ながぐつ》をとり出して、それにながめ入っていた。白い粉のように、塩がフイていた。が、彼はその靴の事を考えているというわけでもなかった。彼は、それをぼんやりと見入っていた。
 ナンバン、大工などの連累者は、ボースンの命|乞《ご》いを計画して、それぞれ手分けをして頼み回っていた。ことに大工は、船長と同じ国の山口県の者であった。彼は、国者《くにもの》という、――何という哀れな、せせこましい、けちくさいことだろう、――理由で、船長のところへ、日ごろの寵《ちょう》を恃《たの》んで出かけて行った。
 「お前が、国の者でなかったら、お前も一緒なんだぞ!」大工は、船長にそう怒鳴りつけられて、失望したような、ホッと安心したような、何だか浮き浮きしてうれしそうな気にまでなりながら、おもてへかえって、「だめだった」ことを報告した。そして、心の中では口笛でも吹きたいよ
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