面をフト、見せることがあるものだ。それは、よくないことであろう。だが、それから先には、なおらないであろう。
 船長はサロンに待っていた。チーフメートもそこにいた。セコンド、サードもそこにいた、陳列されたように頭をそろえていた。船長はそれらの人間にとっても、犯すことのできない人間であった。従って、ボースンなどは「陪臣」であった。
 ボースンは落ちて来た煙火《はなび》の人形のように、ガッカリしていた。彼は、ドーアのところへ立って、マゴマゴしていた。彼はためらっていたが、死のような沈黙と、屍《かばね》のような冷たい目とが、集まっていたので、そのまま思いを決めて、中へはいった。
 そこは、まるで法廷のようであった。そこでは、善人と悪人とは決定されてあった。
 ボースンのしたことは、論ずる余地がなかった。
 「お前に下船を命ずる! 今からすぐに。荷をまとめて、あの伝馬で上陸して行け、合意下船ではないぞ、下船命令だ! それでよろしい」
 きわめて簡単であった。抗弁もなかった。ありもしなかった。余裕もなかった。船長は自分の室へ、赤くなった目を休めに引っ込んだ。それぞれメートらも幽霊のごとく引き取った
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