置かなかった。
彼らは、おもてからロープをおろしてもらって上がった。
彼らが、皆まだ上がり切らないうちに、コーターマスターが飛んで来た。
「伝馬はそのままにしといて、ボースンにすぐ来いって、船長が」とボースンにいって、
「オイ、ボースン、気をつけないと、まっ赤《か》になって憤《おこ》ってるぜ」
ボースンは、女房と、六人の子供が、打ち上げられた藻屑《もくず》のように、ゴタゴタしている、自分の家庭のことを思い出してしまった。「こいつあしまった。行かなきゃよかった」と、彼は思った。深刻に彼は悔いた。悪いと思ってでなく、より悪いことの誘因になったことを、彼は、……頭をデッキへ打《ぶ》っつけたかった。……心臓がまるで肋骨《ろっこつ》の外側についてるように、彼は、動悸《どうき》がした。捕《つか》まった犯罪人のように、彼は、自分の運命が決定したことを直感した。彼は、その破滅に瀕《ひん》した自分の家で、疲れ衰え弱った、妻や、子供らと一緒に飢え凍えている状態を想像して、震えながら、船長の所へと行った。
彼の共犯者? たちも、霜寄りした魚のように、一つところに集まって「困った」のであった。三上
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