どころが悪かったために次のような結果になってしまった。
三五
その夜は、船長にとっては、全く不愉快きわまる長い夜であった。その夜は、ボースン一行にとっては、全く愉快きわまる短い一夜であった。そして、おもての者たちにとっては、それは、灰色に塗りつぶされた、懲役囚の一夜のように惰力的な一夜であった。
その夜が明けると、ボースンらは、陸地近くの、日本海特有のまき浪《なみ》の中から、その伝馬《てんま》の姿を見せた。浪は、その波のような色と幅を持って、沖の方から陸地の方へ巻きころがして行く反物《たんもの》のように見えた。伝馬は、陸近くでは、よくこの浪に見事にくつがえされるのであった。伝馬は巻き込まれるように見えた。が、すぐにヒョコリと現われた。芥子粒《けしつぶ》のような伝馬は、だんだん大きくなって来た。
よせばいいのに、ボースン――海軍出のおもしろい男だった――は、伝馬の舳[#「舳」は底本では「軸」と誤記]《へさき》につっ立って、その功を誇りでもするように、ハンケチを振っていた。
それは、客観的には浦島太郎が、龍宮の乙姫《おとひめ》様のところから、帰って来るのではないかと思
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