をボリボリかきながらこぼした。
 全く船長にしてみれば、その誇りを傷つけられ、自分の優越感を裏切られ、自分の特権を蹂躙《じゅうりん》され、ことに彼さえもまだ遠慮していたのに、「女郎買い」に行ったことは、彼を「愚弄《ぐろう》」することはなはだしいものであった。それは、昔ならば「罪まさに死」に相当すべきであった!
 彼は時々ベッドから、飛び上がっては、ボーイを怒鳴った。それは足へ煮えたぎった湯でもかかった時のように飛び上がるのだった。そして、彼は飛び上がるたびごとに、「きゃつら」に対する復讐《ふくしゅう》を一層残忍にしようと考えるのだった。
 ボースン、ナンバンらが「出し抜いて」直江津の、自分自身の家を一軒独立に構えている女郎買いに行ったことは、憤怒の余り、船長を発作的の熱病患者みたいにした。
 わずか、しかし、このくらいの事で、何のために、それほどまでに船長が、憤《おこ》らねばならなかったか、それは、だれにもわからないのだ。それほどに憤慨しなければならない「理由」を、いまだに「発見ができない」とおもての者たちもいっているのだ。それは多分、「虫の居どころ」が悪かったのだろう。そして、虫の居
前へ 次へ
全346ページ中242ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング