ボートと伝馬《てんま》とをおろして、練習していいという、本船初まって以来の計画と壮挙とが発表された。そこで、伝馬にはデッキ、カッターにはエンジンということに振り当てられた。
 この計画が発表されると、同時に、ボースンと、今の大工、三上の三人は逸早《いちはや》く隠謀をたくらんでしまった。それは、伝馬を、どんどん漕《こ》いでって、上陸して直江津の女郎買いを「後学のため」にして、朝帰って来ようというのであった。そのためには、グズグズしてると不純な分子藤原のごとき、小倉、波田のごときが乗り込んで来ると、いけないというので、気脈相通ずる火夫長とナンブトー(ナンバーツーオイルマン)とを誘惑して、伝馬を占領してしまった。これは無邪気なおもしろい企てであった。この企ては必ず喝采《かっさい》を博すると、彼らは考えた。
 直江津の町は、沖から見ると、砂浜から、松がところどころに上半身を表わしていて、街《まち》はほとんど、その姿を見せないようなところであった。それは、隠されるとなお見たくなるという人心をはげしく刺激した。おまけに、だれかが直江津へ一度来たことがあるのであった。
 「ここの女郎は、皆亭主持ちな
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