江津に着いた。直江津の初秋! それは全く、日本海特有のさびしい景色《けしき》であった。さらでだに、人恋しい船のりは、寂しい人なつっこい自然の情景の前で、滅多に来る事のない直江津の陸をながめて恋い慕った。
 ところが困ったことには直江津の海はきわめて遠浅であって、おまけに少し風が吹くと、そこはのべったらな曲線をなした海岸であるために、汽船は錨《いかり》を巻いて、大急ぎで佐渡《さど》へと逃げねばならないのであった。
 佐渡へ避難する! それもまたセーラーたちには結構であった。そこにも、珍しい街《まち》、珍しい風俗があるのだ。
 万寿丸は別に錨を巻いて逃げるほどのことはないが、石炭積み取りの艀船《はしけ》は波で来られないという、はなはだじれったいあいまいな日が三、四日続いた。これには、船長はおろか、だれでも癇癪《かんしゃく》を起こした。
 そうかといって、わが万寿丸が、不良少年のように、ノコノコ佐渡までも女狂いには出かけられないのであった。
 ちょうど、その時日曜が来た。船長は直江津の艀船《はしけ》の腑甲斐《ふがい》なさを、冷やかす意味において、水火夫全体へ向かって、当番を除いたほかの者は、
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