丸は同じく吉竹《よしたけ》船長――これはやっぱりこの船のブリッジへ錆《さ》びついたねじ釘《くぎ》以外ではなかった――によって、搾《しぼ》ることを監督されていた。そして小樽《おたる》から、直江津へ石炭を運んだ時の、出来事であった。
本船が秋田の酒田港《さかたこう》沖へかかった、午後の一時ごろであった。まるでだし抜けに滝にでも打《ぶ》っつかったか、氷嚢《ひょうのう》でも打《ぶ》ち破ったかと思われるような狂的な夕立にあった。その時、船首甲板には天幕《ウォーニン》が張ってあった。それが、その風にあおられて、今にも、デッキごとさらって行きそうにブリッジから見えた。船長はすっかりあわてた。そして、あれをすぐ取れと、命じた。その時、夕立前の暑さで、おもては皆裸で昼食後の眠りをとっていた。そこへ、コーターマスターが駆け込んで「ウォーニン」をとれと伝えた。
波田、三上、藤原、西沢らは元気盛りではあるし、船長をそれほど「怖《おそ》」れてはいなかったので、猿股《さるまた》一つで飛び出した。仙台と波田とは全裸で、飛び出した。それは風呂《ふろ》のない船においてのいい行水《ぎょうずい》であった。だが、風が猛烈
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