するね」彼は大口をあいて笑った。空気まで寂しさに凍りついたような、静けさを破って、声は通りへ響いた。
「波田君、どうだい、そんなにいけるかい」藤原は立ちながらきいた。
「もういいよ。でも食えば食えないことは無論ないけれどもね。財政が許さないさ。ハハハハ」と笑った。
四人はおもてへ出た。西沢は「ひやかして、一杯ひっかけてくる」と言って坂を遊郭の方へ上がって行った。三人はそろって、どこか、そこが外国の町ででもあるような感じを抱《いだ》きながら、馬蹄形《ばていがた》にその船へ向かった。
ボーイ長は波田から菓子のみやげをもらって喜んだ。
三人は、紅茶のおかげで眠られぬままに、ボーイ長のそばで、ストーブに石炭をほうり込みながら、前のボースンが、直江津《なおえつ》でほうり上げられた悲惨な話を、思い起こしては語り合った。
三四
それは、ここに今書くべきことではないかもしれない。けれども、それは書いた方が都合がいい。船長とは一体何だ? それの答えの一部にはなるだろう。
それは夏の終わり、秋の初めであった。時々暑い日があって、また、時々涼しすぎる夜があるような時であった。万寿
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