「どのくらい暖かいだろうなあ」と思いながら油と垢《あか》とでガワガワになったズボンのポケットの中で、拳固《げんこ》を力一杯で握り固めたり、延ばしたりした。
西沢はオーバーがない代わりに、スェーターを着込んでいた。それは、「買いかぶった」綿製の物であった。「随分商人はひどいことをしやがる」もっとも、彼はそれに一円二十銭を夜店で出したということは、あまり吹聴《ふいちょう》はしない方が賢いと思っていた。
こうしてめいめいがはなはだしく貧弱な防寒具の下《もと》に、はなはだしく寒い、寂しい、荒涼たる、一口にいえば、といっても、いいようのない、そうだ、それは「死」にいやでも応でも考えを押しつけねば置かない関係、すなわち、プロレタリア対寒冷! の、本能的の寂しさの中を、四人は、港の街《まち》のさびしい通りの、明るい二階で暖かいお茶と、お菓子とが待ってることを思って急いで行くのであった。
左側は、駅から迂回《うかい》して来た鉄路のある山腹の切断面、それから高架線、それらが万寿のかかってる方へ並行していた。積まれた石炭の上には雪がすっかり塗り上げをしていた。ところどころに、人足《にんそく》の茶飲み
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