ボースンに、五円貸してくれと頼んだ。そして二円をボーイ長へ割《さ》いて、三円をふところへしまい込んだ。そして、彼は、デッキを通って、チーフメーツの室の付近へ行って、藤原の交渉を聞こうと試みた。しかし、チーフメーツの室は固く扉《とびら》に錠がおろされて、人の気配《けはい》がしなかった。彼はサロンデッキを一回りした。けれども何事も、そこでは起こってはいなかったし、また、だれもそこにはいなかった。
 波田は――それでは、藤原君はどこへ行ったんだ?――と思いながら、おもてへ帰って来た。
 藤原はもう帰って来て、水夫たちに、チーフメーツは、船長よりも先にサンパンで、海から上陸したあとだったことを報告したところであった。
 そこで、ボーイ長はどうしよう、という相談が水夫らと、四人の舵取《かじと》りの間に行なわれた。

     三二

 相談の結果、病院が夜では都合が悪くはないかという動議のあったため、なるほど、それは昼の方がいいだろう。では明日《あす》午前中に、行くことにして、ついでといっては済まないが、この事件の最初からの関係者として藤原君と、波田君とに、病院までついて行って、もらおうと言うこ
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