とになった。金は五人の水夫と、四人の舵取りと、一人《ひとり》の大工とで二円ずつ出せば、二十円あるから、それで、もし必要ならば入院させて、「とも」で入費を持たないというようなことであったら、おもてで持とう。その代わり、とものやつらは覚悟をするがいいや、というようなことになった。
安井は、そのきたない、暗い、寒い寝箱の中で、その傷の疼痛《とうつう》のために、時々顔をしかめながら、一生懸命にことの成り行きを聞いていた。そして、藤原のそれほどの努力にもかかわらず、また、明日に延びたと聞いて、彼は心持ち持ち上げていた、その頭をまたぐったりと落としてしまった。今夜は病院へ行けるという、彼にとっては唯一の歓《よろこ》びが消えてしまったのであった。彼は、今までと「同じ」一夜をまた、この船室で苦しみ通さなければならないということに、まっ黒い絶望を感じたのであった。
しかし、何ともならなかった、事情は彼も聞いていた通りであった、「とも」の人間にとっては、彼は、その生命でも一顧の価値なきものだということが、念入りに繰りかえされて聞かされたに過ぎないのであった。そして、彼は、自分の生命がほとんど、生まれ落
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