だけの金を持っていたならば、チーフメーツへなんぞ、再び交渉に行くわけがなかった。その結果は、あまりに彼にはハッキリ見え透いている。けれども、彼がもし、ボーイ長を自分の費用で連れて行き得ない限りは、彼はありとあらゆる手段を試みる必要があったのである、[#「、」は筑摩版では「。」]そして、それは、また、彼を救うと同時に、ボーイ長を絶望から、しばらくでも引き止めて置くところの、唯一の残された方法なのであった。
 「チーフメーツの方もどうなるかわからないから、もし、それがだめだったら、おもてで出し合うってことにしよう。そうすることは、まるで船主にロハでくれてやるようなもんだが、この際仕方が、ほかにあるまい。そして大丈夫チーフもだめだと思うんだ。船長の許さないものをおれが、というに相場はきまってるんだ。だから、一人《ひとり》頭二円ずつぐらい金を集めて置いてくれないか、それはボースンに頼もう。今持ち合わせのない者は、ボースンに立て替えて置いてもらうこと。ということにしていたらいいだろう。ね、僕は、チーフのところへ行って来るから、頼みますよ」
 彼は出て行った。波田は、彼が出て行ってしばらくすると、
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