たんだ。そして、その船によって、最も重大な利害を感ずるはずの船主は、今その宅で雪見酒を飲んでいるのであろう。その二十人の不払い労働から、蓄《た》めて経営している会社の株のことを、電報がはいるとすぐに気にするだろう。遺族には、香典が二十円ずつぐらいは行くであろう。そして、船主は、二十人の人間のことよりも、その沈没するのが当然なほど腐朽し切った、ぼろ船の運命に対して、高利貸式の執拗《しつよう》さでくやしがってるだろう」
「人間が生きて行くためには、どうしても人間の生命を失わねば生きて行けないのか、人柱《ひとばしら》! おれたちは皆人柱なんだ!」
五
水夫室では、水夫たちが、犬ころがうなり合いながら食べると同じように、騒ぎながら、夕飯を食っていた。
負傷したボーイ長のそばには、藤原と、波田とがいた。波田のベッドは、ボーイ長のとL字形に隣り合っているので、自分のベッドで、頭をかがめながら、うまい夕食を摂《と》った。全く、字義どおりに「のどから手が出る」ほどであった。胃の腑《ふ》へ届く食物は、そのまま直ちに消化されて、血管を少女のような元気さと華《はな》やかさとで駆け回るよう
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