に感じられた。彼は飯を口一杯に頬《ほお》ばりながら、ボーイ長の足もとに波田と並んで、これを頬ばっている藤原に話しかけた。
「チーフメートは来たかい」
「まだだよ」藤原は、まるでそれが波田のせいでありでもするかのように、ふくれっ面《つら》をもって、答えた。
「随分無責任じゃないか[#「ないか」は筑摩版では「ないかい」]。三時間も打っちゃらかしとくなんて」
「距離が遠いんだよ。距離が、やつらのはね」藤原はなぞのようにいった。
「ハハハハ、なるほどね、サロンから、おもてまでじゃ三時間じゃ来られねえや」波田は、冗談だと思って笑った。
「五感と、神経中枢との距離がさ。鼻と口との距離と同じほどなんだよ」
ストキはひどく憤慨しているように見えた。「それに、こういうことになれて、無神経になるってことは、それが仲間のことであると、なおさらよくないね」
藤原は、話がむずかしいので、有名であった。彼は漢語みたいなもの――仲間の間でそういった――を使いたがる癖が骨にしみ込んでいるのであった。
まだ食事が、始められて間もなく、チーフメートは、ボーイに「救急箱」を持たせて[#「持たせて」は底本で
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