れは寂しい情景であった。船員たちにとっては、彼らの手に負えない夢幻的な情緒であった。従って水夫たちにとっては、それは本能的な、肉欲的な、一対照より以外ではなかった。
 彼は、今夜も、そこへ行くために、汽車の時間表とにらめっこをしながら、したくを急いでいた。
 船長が、そのダイアモンドのピンを、ネクタイに「優雅」にさそうとしている時に、純白の服を着けたボーイは船長室の扉《とびら》をたたいた。
 「何だ?」船長は怒鳴った。
 「ボースンとストキとが、お目にかかりたいといって、サロンで待っております」
 「用事だったらチーフメーツへ話せ、といえ」彼はピンの格好について、研究を続けた。ボーイはサロンに待っていた、ボースンとストキに、その由を伝えた。
 「それじゃ」と、ボースンは、それをいいしおに、ストキにいいかけた時であった。
 「どうしても、会わなきゃならないんだ! ぜひ、会いたいって、も一度取り次いでくれたまえ」ストキは、ボースンをおさえてボーイにいった。
 ボーイは「何だい一体」とストキにきいた。
 「ナアに、ちょっと会って話せばいいことなんだよ」気軽に藤原は答えた。
 「奴《やっこ》さ
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