劇動のために土色であった。心臓はむやみやたらに、はね上がった。頭が痛く、目がくらんで、彼は、しばらくデッキへ打《ぶ》っ倒れるか、その辺にあるどんなところへでも、打《ぶ》っ倒れるのが例であった。
 だれかが、このチエンロッカーにはいらなかったならば船は動き得ないのであった。波田は、破れそうな心臓に苦しみながら、どんなに多く与え、少し得ているかを思わずにはいられないのであった。
 「おれたちは死ぬほど苦しんで、こんなありさまだのに、遊び抜いて、住みもしない別荘を、十も持った人間が、この船を持ってるのだ!」
 万寿丸はかくして桟橋へ横付けになることができた。
 桟橋の上は、夕張炭田から、地下の坑夫[#「坑夫」は底本では「抗夫」と誤記]らの手によって、掘り出された石炭が、沢山の炭車に満載されて、船の上の漏斗《じょうご》へ来ては、それを吐き出して帰って行くのだった。
 数十間の高さに、海中に突き出している高架桟橋上の駅夫や、仲仕の仕事は、たとえように困るほど寒いものに相違なかった。
 人はストーブにあたって、暖かいコーヒー、暖かい肉を摂《と》るべき時候であった。そして多くの労働者は、それを作り出
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