ながらも、チーフメーツの声に応じて、そのたびに、マストの梯子《はしご》まで駆けて行っては、また、駆けて帰るのであった。「ね。おい、やってくれるだろう。な、おい、頼んだぜ」
 「おれたちゃチーフメーツの命令でやめただけのもんだ。ボースンからやれっていわれたってどうも、やるわけにゃ行かないぜ」ストキはがんばった。
 「困ったなあ、ほんとに、チョッ! 頼む、わしは今ちょっとチーフメーツさんが呼んでるから上がって来るから、その間頼むよ。いいかい。おれを助けると思って。な」
 ボースンは発育不良な、旅芸人のジョーカー見たいな格好で、マストにとりつけてある梯子《はしご》を上《のぼ》って行った。
 三人の水夫は、そこに腰をおろしてしまった。彼らは、彼らの力が偉大であるということを知った。わずか三人のセーラーであった。しかも、それが、ただ何ともいわずに、ボイラーからおりただけであった。それだけなのに、このボイラーが動かず、あのクレインがむなしく待ち、仲仕が徒手傍観し、本船の出帆がおくれ、チーフメーツは青くならなければならない。
 そして、これは、ただ労働を一時中止するというだけの簡単な理由からなのだ!
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