思った。その一度は、どこで経験し、どこで考えたかということを、彼は考えさかのぼるのであった。そうして、そこには、彼の以前の生活があった。ひもじい、寒い小作人の子としての絶え間なき窮乏の生活が、それも二重の形をもって展開されるのであった。小学校時代の暑中休暇のことが、彼の今の負傷して寝ている状態と、ゴッチャになってしまったりするのだった。「ちょうどおれは二度目だ」と彼はぼんやりけがのことを考えているのであった。「おれはあの時、ほかのだれもが休んでいるのにおれだけは、父《ちゃ》んと二人《ふたり》で田の草をとりに出かけたっけ。休まねばならぬ時に、おれは、煮えたぎる田の水の中で草とりをしたっけ。おれは休む時を持って生まれなかった。だが、あの時おれはけがをしたっけ。そして休んだっけ」それから、彼の哀れな、疲れ切った意識は、彼を暑中休暇の田の草とりから、彼を厳寒の万寿丸へ引き戻してしまった。そして彼はまたうめきもだえ狂わねばならなかった。
彼はその疼痛の絶頂においては、感ずるのであった。
「こんな苦痛をハッキリ味わわねばならないってのは、何て惨酷なことだろう。それよりも、もっとひどい苦痛を、も
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