イ長の負傷によって陰気にされていた。そして自分の負傷のように、いらいらさせられた。彼らは、それから逃れようとして、あせっていた。冷淡な、無関心な態度は、彼らが鈍らされた神経を持っていることと、も一つは「なれている」ことと、今一つは、その自分自身の運命を、あまりにハッキリ見せつけられることから、免れようとする心から出たことであった。
 波田は、石油|罐《かん》の二つに切ったので、便器をこしらえて、彼と、ボーイ長の寝箱とが※[#「※」は「L」を180度回転させた形、142−9]《かぎ》形をなしているすみへ置いてやった。
 安井は、だれも見えなくなると、その便器へ用を足した。その時の彼の努力は全くおびただしいものであった。彼は、用を達《た》したあとは、疲労と疼痛《とうつう》とで失心したような状態に陥るのであった。
 彼は、一切のことが、二度目であるというような幻覚にとらわれるのであった。それはちょうど、濁った方解石を透《とお》して物を見るように、一切がボンヤリして二重に見えるのであった。彼は、ズッと遠い以前からの歴史も、また、たった今何か考えた刹那的《せつなてき》な考えも、二度目であるように
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