に送ろうと思って、収入がいいという話を聞いたから、船に乗ったらこんな始末だろう。今後どうしてやって行くかまるでわからなくなってしまったよ。こんな時はいくら貧乏してもやっぱり、とうさんやかあさんがいると、気強いけれどなあ」と語って彼はホロリとした。
労働力を売って生活するこの青年も、今その売ろうとする労働力が、大きな障害を与えられたことについては、どこかはっきりしない憤懣《ふんまん》を心の底に感ずるのであった。彼は、負傷後、イヒチオールを二、三回塗布され、足のガーゼを二、三度自分で取り換えただけであった。彼は傷の疼痛《とうつう》のために、非常にやせてしまった。彼はそのいたさに、彼の神経を極度に疲労させた。
水夫たちが、仕事に出て行って、おもてにだれもいなくなると、彼は、今までためていた苦痛の叫びをあげるのであった。彼は、出任せに何でも叫んだ。そして自分の声に一生懸命聞き入った。彼の足の痛みは負傷後五、六時間を経て、はなはだしくなって来た。彼は、そのぬれた麩《ふ》のように力なく疲れたからだを、寝箱の中から危うくデッキへ落ちそうにまでもだえ狂った。彼は狂人のように叫んだ。そして、それは、
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