用意して置けと命じた。ボースンはおもてへ帰って来て「今からハッチの蓋《ふた》をとるぞ」
そこで水夫らはデッキへと出て行った。
二七
おもてはストキから、ボースン、大工まで、全部出て行ったので、あとは傷を負って、むなしく一週間余りを暗室――それはほとんど暗室であった――の、寝箱の中でもだえ苦しんだ、ボーイ長の安井と、おもての通い船のおやじと、それから、沖売ろうのその娘とだけになった。
沖売ろうの娘は、波田の寝箱の縁へ腰かけていた。サンパンの船頭は、ストーヴの前へ腰をおろして、皆黙々としていた。
おもての、デッキでは、ビームがデッキへ打《ぶ》っ突かる音や、ウインチの回る音などで、まるで船全体が太鼓ででもあるように響きわたった。
ボーイ長は、自分では大して自由にならないからだを持ち扱って退屈し切っていた。
「ねえさん、わしに少し菓子をくれないか」ボーイ長は労《つか》れ切った声でささやくようにいった。
「アア、びっくらしたよう。だれかおるだがよ、ここに」と彼女は飛び上がって、ボーイ長の暗室をのぞいた。そこにはボーイ長が確かに寝ているのであった。
「あ、見習いさんで
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