ねえか、びっくりしただがよ」彼女は菓子箱を持って来て、ボーイ長の前へひろげて見せた。
 ボーイ長はそれを三十銭買った。そうして、うまそうに、むさぼり食べるのであった。
 「船頭さん! おれ今日《きょう》陸へ上がりたいが連れてっておくれよ」ボーイ長は船頭へ声をかけた。
 「ああ、いいとも、お女郎買いかい?」船頭はすばらしく大きいからだの、気のいい五十格好のじいさんだった。
 「うんにゃ。わしゃけがしたので、病院へ行くんだ」彼は今度こそ病院へ行けると思った。
 ボーイ長は思うのであった。「わしのけがをしたということは、もうだれも彼もみな忘れてしまっているのだろう。わしのけがをしたことは、全く他の人たちにとっては些細《ささい》なことなんだろう。だが、それやあまり不人情だろうと思われる。ことに、私の足は膿《う》んでしまって、痛くてたまらないんだ。わしは今日は、何としても船長さんに願って、病院へ入院させてもらわにゃならん。私のからだは、私が大切にしないでだれが大切にしてくれ手があろうか、私は船頭さんに病院まで負《おぶ》ってってもらおう。私はもう、何から何まで自分でやらなけれやだめだと知ったんだ」
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