」のであった。彼はきわめて貧乏――月八円――であった。それだのに、彼は金つばを三十ぐらいは、どうしても食べないではいられないのであった。しかし、財政の方がそれほど食べることを許さないのであった。彼は沖売ろうがいっそのこと来ねばいいにと、いつも思うのであった。そのくせ沖売ろうの来ない日は、彼は元気がないのであった。全く彼は「甘いものに身を持ちくずす」のであった。
この場合においても彼は、ソーッと、自分の棚《たな》から、状袋を出して、その中に五十銭玉が一つ光っていることを見ると、非常な誘惑を菓子箱に感じた。
「どうしてもおれは仕事着と、靴《くつ》が一足いるんだがなあ」と考えはした。彼は、その全収入を菓子屋に奉公するために、仕事着は、二着っきり、靴はなく、どんな寒い時もゴム裏|足袋《たび》の、バリバリ凍ったのをはいていた。そして、ボースンの、ゴム長靴のペケを利用して、その脛《すね》の部分だけを、ゲートル流にはいていたのであった。も一つ、彼が菓子以外にいかに金を出さないか――出せないかということを知るには、彼の頭を見ればよかった。まるでそれは「はたき」のように延びて汚《よご》れ切っていた。
前へ
次へ
全346ページ中168ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング